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よあけまえ

夜明け前

島崎 藤村

01 第一部上

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 205,629 字 · 408 页

青空文庫

あだかも暗い中世はそんなところにも残って、半蔵の目の前に光っているかのように見える。

いつのまにか彼の心はその額の方へ行った。ここは全く金胎両部の霊場である。山嶽を道場とする「行の世界」である。神と仏とのまじり合った深秘な異教の支配するところである。中世以来の人の心をとらえたものは、こんな両部を教えとして発達して来ている。父の病を祷りに来た彼は、現世に超越した異教の神よりも、もっと人格のある大己貴、少彦名の二神の方へ自分を持って行きたかった。

白膠木の皮の燃える香気と共に、護摩の儀式が、やがてこの霊場を荘厳にした。本殿の奥の厨子の中には、大日如来の仏像でも安置してあると見えて、参籠者はかわるがわる行ってその前にひざまずいたり、珠数をつまぐる音をさせたりした。御簾のかげでは心経も読まれた。

「これが神の住居か。」

と半蔵は考えた。

彼が目に触れ耳にきくものの多くは、父のために祷ることを妨げさせた。彼の心は和宮様御降嫁のころに福島の役所から問い合わせのあった神葬祭の一条の方へ行ったり、国学者仲間にやかましい敬神の問題の方へ行ったりした。もっとも、多くの門弟を引きつれて来て峻嶮を平らげ、山道を拓き、各国に信徒を募ったり、講中を組織したりして、この山のために心血をささげた覚明、普寛、一心、一山なぞの行者らの気魄と