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よなきてっこつ
夜泣き鉄骨
海野 十三
「新青年」1932(昭和7)年8月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 15,273 字 · 31 页
「じゃ、何て薬だい」
「そいつは、云うのを憚る――」
「教えねえというのだな」
「仕方が無い。これァ薬屋仲間で、御法度の薬品なんだ」
「御法度であろうと無かろうと、わしは、訊かにゃ、唯では置かねえ」
「脅かしっこなしにしましょうぜ、組長さん。そんなら云うが、この薬の働きはねえ、人間の柔い皮膚を浸蝕する力がある」
「そうか、柔い皮膚を、抉りとるのだな」
「それ以上は、言えねえ」
「ンじゃ、先刻みせた注射器の底に残っていた茶色の附着物は、この薬じゃなかったかい」
「さァ、どうかね。これは元々茶褐色の液体なんだ。ほら、振ってみると、硝子のところに、茶っぽい色が見えるだろう」
「それとも、やっぱりあれは、血のあとか。いや大きに、御苦労だった。こいつは、少ないが、当座のお礼だ」
そう云って、わしは、十円紙幣を、横瀬の手に握らせ、今日のことは、堅く口止めだということを、云いきかせたのだった。
4
いよいよ、夜は更けわたった。
月のない、真暗な夜だった。風も無い、死んだように寂しい真夜中だった。
かねて手筈のとおり、工場の門衛番所に、柱時計が十二の濁音を、ボーン、ボーンと鳴り終るころ、組下の若者が、十名あまり、集ってきた。