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ゆめのごとくしゅつげんしたかれ
夢の如く出現した彼
青柳 喜兵衛
「月刊探偵」黒白書房、1936(昭和11)年5月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 2,194 字 · 5 页
かつて久作さんや次兵衛達によって短歌会が持たれていた頃、たまたま散策には少し寒いが晩秋の月のいい日に香椎の山で会が持たれて、一同は久作さんの山家で気勢を上げたそうである。飲む程に喋舌る程に、熱を上げ、降りしきる虫の声も眠る頃に及ンでやっと三人かたまり五人集って、三里の道を博多へと帰り始めたとお思い下さい。勿論その時分乗りものが有ろう筈もない。
然るに湧き返る青年達の血潮は玄海灘から吹きつける肌寒い夜風位いには驚きません。歌論は歌論へ、秋月は歌心へ、帰り行く友を送ってそこらまでの心算がやがて博多の街つづきである箱崎になんなんとする地蔵松原――二里余もつづく千代の松原の一部、ここには米一丸の墓があって、人魂が飛ぶと云われた淋しいあたり、鉄道自殺と云えば地蔵松原を連想する程で、久作さんの『宙を飛ぶパラソル』はこのあたりでの出来ごとである――の果て近くまで論じ来り、遂いに淋しい松根に御輿をすえてしまい、秋月すでに帰り、太陽は名代の顔にしまを作ったと云う事である。こうした情熱と根強さが、世にも怪しき名探偵作家としたのではあるまいか。
久作さんはほんとに夢の様に、ポックリ逝かれた。