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ゆめはよびかわす
夢は呼び交す
蒲原 有明
――黙子覚書――
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 104,126 字 · 210 页
黙っている。それがつくづくと見ていると、沈黙を強いられているようにしかおもわれない。黙ってはいるが、今にも唇がほころびそうでもある。またこうも思われる。堅く押し黙っていることが物を一層よく語っているではなかろうかと。写真はそんなふうに黙りきって、永久にこちらを向いている。
鶴見はこの写真を、おりおり、こっそり引き出して、ながめ入ることがある。紙入に嵌めてある鏡を拭って、拭い切れぬ水銀のさびを悲しみながら、その鏡に自分の顔をうつして、かの写真とこの面影とを見較べて、身じろぎもせずに何か考え込むことが、これまでも、しばしばあった。かれとこれとにどこか似ているところがありはせぬかと、そういうように思われるからである。
「お前も随分年を取ったね。」どこからか、こういう声が聞えてくる。「お忘れかも知れないが、わたしがお前の生みの親だよ。母親だよ。お常だよ。」
鶴見の実母はお常といった。
彼はその名を胸の奥の心の臓にきざみつけて、一生を守りどおして来たのである。忘れるどころではない。
しかし母親の里方については、鶴見には一切知らされていない。この母親には鶴見が六歳の年に別れた。