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ゆめはよびかわす

夢は呼び交す

蒲原 有明

――黙子覚書――

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 104,126 字 · 210 页

青空文庫

鶴見はふと気がついてそんな風な考にはまり込む時がある。夫人の生涯を鶴見は自個の生涯の上にも見たのである。

「おれの生涯は敏慧で親切で寛容な夫人の優雅な言葉を縫糸にしてはじめて仕立てられた一領の衣である。おれにはそう思われて仕方がない。清新と自主と自由とが縫い目縫い目に現われている。野性に圧された重たい麻衣の上に少しばかりの柔靭さが加わったとすれば、あの不思議な縫糸と自然な運針とを仔細にあらためて見ねばならない。そこにはあの奥深い情味のこもった宗教の香味がそこはかとなく匂っているのである。

冥々の化ということがある。夫人の長い生涯の間の感化がそれである。いつとは知れず、その感化がおれの体に浸み込んだのだ。そしてそれが冥々の裡におれの思想を支配していたのでもあったかのように反省される。この夫人ならおれの生母のいきさつをも熟知していたかも知れない。おれはおりおり聞いて見ようとしたが、口には出せなかった。おれにはつまらぬ片意地がある。それでいつも損ばかりしている。夫人は不幸なおれの境遇をよく知っていたので、余計に孤児としてのおれを憐んでいたのかも知れない。