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ゆめはよびかわす

夢は呼び交す

蒲原 有明

――黙子覚書――

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 104,126 字 · 210 页

青空文庫

鶴見の少年期はそんな時代の波をくぐって来た。その一事を生涯のよろこびとすることを、彼は私かに誇りとしている。そのよろこびの中でかれはこれまで幾度か若返って来たのである。今でもそうである。「おれにはそうとしか思われぬ」といって、かれはその時代に対する讃美を惜しんでいない。

とんぼ釣をやめて急に大人びたかれは、とんぼの代りにこれから先釣り出して見たいと思うものを、空想のかたちにおいてでも持っていなければならぬはずであった。かれにはそういう考がなかった。この時になってもまだ自己について何らの思量をも加えずにうっかりとしていた。人生を無意識に遊戯の場地と見なす癖は改まっていない。家庭でこそかれを強圧するものがあり、畏縮させるものがあったとはいえ、一たび外に出れば、そこには自由な小天地がかれをここちよく迎えてくれた。とんぼの代りに自然を観察することが、かれを家庭の憂鬱から紛らかした。自然というような広汎な抽象的観念がここに少しく開かれて、今までに覚えなかった快楽をかれの方にさし向けて来た。理性が漸くその機能の蠕動をもって自覚の徴候を示すようになって来たのである。