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ゆめはよびかわす
夢は呼び交す
蒲原 有明
――黙子覚書――
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 104,126 字 · 210 页
はかないことである。鶴見はこうして、とうとう本山から貰ってきたという、比丘尼の称号をすら知らずにすごしてしまった。かれはこんなことのあるたびに、性分とはいいながら、普通の人情に欠けたところのあるのを反省するのである。
鶴見はまた考えた。女の身の上ほど変化極りないものはない。自分などはやっとこれからというとき、女は既に人生の複雑な径路をたどって、最期の苦悩まで嘗め尽して、しかも孤独のまま死んでゆくのである。かれはそう考えながら、謎めいた女の一生をひそかに気味わるくも感じているのである。
鶴見が小倉で女に別れてきてから、幾年かは比較的に無事に過ぎた。その平康のなかからまた新たな性慾の経験がはじまって、かれは忘れ得ぬ苦しみを身を以て苦しみぬいた。かれはここに至って、その回想が一倍の冷静さを要求することを知った。身を以て苦しみぬいたという外に回想すべき何物をもそこに窺えないからである。如法の黒闇がすべてを領していた。経過した一々の事象も内心に何らの写象をもとどめていない。殆ど空無であるその心理状態を強いていえば、ただ「暗い」という一言で足りよう。目に見えぬものにも臭いはあろう。