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ゆめはよびかわす

夢は呼び交す

蒲原 有明

――黙子覚書――

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 104,126 字 · 210 页

青空文庫

それぐらい花袋は肥っているのである。妓のおもかげと酒とが三昧境をかれの前に展開する。好いここちに浸り切った花袋がそこにある。単に花袋と呼ぶよりも花袋和尚と呼んでみたい。酔態の中にも一種の風韻がある。近眼鏡の奥には慧敏な目がぎろりと光っているが、そこにも人なつこいところが見える。和尚と呼ぶのがあながち不適当とも思われない。

鶴見は今花袋と相対して無礼講をきめこんでいる。杯を措く暇もない。その時何かの拍子にこんなことをいった。「花袋君。因襲はもちろん破らねばならないね。固定はすべての因襲の根源だ。それではどうだろう。生死というのも一つの観念にちがいない。ことに死はね。死は特に異様な相を帯びて目だつのだ。そういう死も一の固定した観念として、因襲として、当然排除せられるのだろう。花袋君、どうだろう。」

そんなことを、鶴見はしどろもどろにいってみたのである。話下手ということはどうにもしようがない。花袋はそれをどうとったのか、「死が因襲であろうはずはない」と例の性急な口つきで声を励ました。鶴見はこの和尚の一喝を喫してたじろいだ。

そうこうしているうちに、玄関に訪問客が見えたようすである。