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ゆめはよびかわす

夢は呼び交す

蒲原 有明

――黙子覚書――

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 104,126 字 · 210 页

青空文庫

それに今朝まで雨が降っていたろう。しっとりと濡れていて、今が一番見どころがあるね。殊に梅は咲き揃うと面白くなくなるよ。」

鶴見はいっぱしの手柄でもした様子で、言葉を多くして、はずみをつけて、これだけの事を語り続けた。

「そうですか。だんだん暖くなって来ます。もう少しの辛抱でございますね。」

刀自はあっさりとそういったきりで、縫針の手を休めない。不足がちな足袋をせっせと綴くっているのである。傍に置いてある電熱器もとかく電力が不調で、今も滅えたようになっている。木炭は殆ど配給がなく、町に出たときコオライトというものを買って来て、臭い煙の出るのを厭いながら、それを焚いていたが、それさえ供給が絶えてから、この電熱器を備え付けたのである。

しかしこの日はどうしたことか、鶴見は妙にはしゃいでいる。いつもの通り机の前に据わって、刀自の為事をする手を心地よく見つづけながら、また話しだした。

「あの梅を植えたときのことを覚えているかい。まだずぶの若木であったよ。それがどうだろう、あんな老木になっている。無理もないね。あの関東大震災から二十年以上にもなるからな。」

そういって感慨に耽っているようであるが心は朗らかである。