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ゆめはよびかわす

夢は呼び交す

蒲原 有明

――黙子覚書――

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 104,126 字 · 210 页

青空文庫

「おれは信の種を播いたのだよ。」

鶴見がこの不思議な夢を傍観して驚異の念に打たれていた隙に乗じたのでもあるまいが、その夢はすでに滅えかけていた。喜海に取って代った景彦のすがたをちらと見たかと思う瞬間に、それもまた虚無のうちに没し去った。

鶴見は狭い庵室の中に独り残されて、ぽつねんとして黙座している。上人と見たのは栂尾の上人である。上人は茶の種を播いたばかりではなかった。上人は夢だといわれた。それは暗示である。上人は信の種、真言の種を播かれたにちがいない。鶴見はそう思って上人の歌道に関する垂示を憶い出すのである。

――すべての所有相は虚妄と見るより外はない。しかしながら読み出すところの歌は真言である。虚空の如き心の上でさまざまの風情を彩るといえども、そこには更に蹤跡というものがない。この歌こそは如来の真の形体。一首に仏像を刻む思いをなし、一首に秘密真言をこめなしている。自分は歌によって法を得ることがある。

これが栂尾上人の垂示の大略である。鶴見は一心になってその言葉を噛みしめつつ味っている。

歳が改まった。寒い寒い毎日がつづく。ことしはわけても寒威が厳しいのではなかろうか。