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ゆめはよびかわす
夢は呼び交す
蒲原 有明
――黙子覚書――
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 104,126 字 · 210 页
評伝はこれを引用して置きながら、その歌には余り価値を認めていない。鶴見は一読して感歎した。それから毎日のように口誦んでは、そのあとで沈思しているのである。
鶴見にはこの歌につき別に思い出があって、それが絡みついて、その印象をますます深くしている。それというのは、先年静岡市の図書館で名家墨蹟記念展覧会が開催されたことがある。その会場で真淵の横幅物を見た。浜松の某家からの出品である。鶴見はその幅の中で、一度この「うま酒の歌」を知っていたからである。知ってはいたが最早十年も昔のことである。忘れていたといっても好いぐらいである。よく練れた温雅な薄墨の筆蹟で、いかにも調子は高いが、どこまでも静かにおち著いていて、そこにおのずから気品が備っていたように覚えている。
この「うま酒の歌」が重ね重ねの機縁となって鶴見を刺戟した。刺戟されたのは久しく眠っていた製作欲である。鶴見は物に憑かれでもしたようになって、しきりにそれを不思議がっている。
しかしまた鶴見はそれを恐れもした。こんな時に景彦がやってきて反撃するかも知れぬということを恐れたのである。不思議不思議と言い募ってみても、そのなかからは何も出て来ないのだ。