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ゆめはよびかわす

夢は呼び交す

蒲原 有明

――黙子覚書――

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 104,126 字 · 210 页

青空文庫

『阿部一族』の中で、高見権右衛門が討手の総勢を率いて引き上げて来て、松野右京の邸の書院の庭で主君の光尚に謁して討手の状況を言上する一段のところで、丁度卯の花が真白に咲いている垣の間に小さい枝折戸のあるのを開けて這入ったと、先ずその境地が叙してある。書いてあることは何の造作もないように見えてかえって印象が鮮やかだ。寛永十九年七月二十一日のことである。一つは卯の花の事を別段に考えていた関係もあったろうが、鶴見はここに読み到って、また新に卯の花が眼のあたりに咲き返って来たような心地がした。

これは極めて単純な例示に過ぎないが、鴎外の観照的能力がその具現を見せるときに、適確な記述の文章を背地に置いて奈何に肯綮に当り、手に入ったものであるかは、原文が簡単であるだけになおよく分る。

鶴見が今挙げた卯の花は阿部家滅亡の雰囲気のなかにくっきりと花を咲かせていたが、それとは別に内藤長十郎殉死の事がその前段にある。そこでは、丈の高い石の頂を掘り窪めた手水鉢に捲物の柄杓が伏せてある。その柄杓に、やんまが一疋止まって、羽を山形に垂れている。吹田順助さんはこの蜻蛉の描写を特に推奨して、こういった。