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ゆめはよびかわす

夢は呼び交す

蒲原 有明

――黙子覚書――

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 104,126 字 · 210 页

青空文庫

かれにも油の乗る時機はあった。そうはいうものの、久しからずして気運は一転し、またたく間に危機が襲いかかった。危機はもとより外から来た。しかしかれの内には外から来る危機に応じて動くばかりになっていたものを蔵していたということもまた争われない。内から形を現わして来たものが外からのものよりも、その迫力がむしろ強かったという方が当っている。それに対して抵抗し反撥することは難かった。理不尽に陥ってまでもそれを敢てすることはないとかれは思っていたからである。

孤立であったかれは、譬えば支えるものもない一本の杭のごときものであった。その杭の上にささやかな龕を載せて、浮世の波の押寄せる道の辻に立てて、かすかな一穂の燈明をかかげようと念じていたことも、今となってはそれもはかない夢であった。かれには夢が多すぎた。しかもその夢はいつしか蝕まれていた。危機に襲われて、これまで隠していた弱所が一時に暴露したことを、かれは不思議とは思っていない。それがためにかれは独で悩み、独で敗れることになったのである。

その時、体をひどく悪くしていたことも手伝って、それなりに文壇を遠退いてしまった。