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ゆめはよびかわす
夢は呼び交す
蒲原 有明
――黙子覚書――
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 104,126 字 · 210 页
今は何一つ、それらしいけはいもないのであるが、追々に彼岸も近づいて来る。或る朝目を醒して見ると、そこに思いも寄らぬ真紅の花が歌っている。舞を舞っている。鶴見はその物狂いの姿を示す奇蹟の朝を楽しみにして待っているのである。静寂な「無」に育まれる遑ただしい幻想でなくて何であろう。
田舎道を歩いて見る。路ばたに何ほどかの閑地が残されていて、そこが少し高みになった場所がある。苔蒸した石碑などが傾いたまま草むらに埋もれている。そういうところによく石地蔵が据えてある。古い時代の墓地であったのであろうか。珍しくもない鄙びた光景であるが、そういうところで、わが彼岸花は、思いのままに村の小供を呼び寄せる。
石蒜の球根はたしかへぼろといった。小供たちはその球根を掘り起して、緒に繋いで、珠数に擬えて、石地蔵の頸に掛けて遣る。それだけではすまない。まだまだいたずらをする。球根を磨りつぶすと粘った濃い汁が出る。その汁を地蔵尊の冷たい石の鼻の穴のあたりに塗り附けて見る。そうして手を拍ち合って囃したてる。「鼻垂れ地蔵だ。やい」というのである。
鼻垂れ地蔵の由来は、結局そんな無邪気なざれ事で説明せられる。