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ゆめはよびかわす

夢は呼び交す

蒲原 有明

――黙子覚書――

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 104,126 字 · 210 页

青空文庫

坊ちゃんは打出の小槌を持って来る。そして無心で、いろいろの宝を、その小槌から打出しては、それを惜しげもなく鶴見に贈る。こういう考が鶴見の心の隅の、どこかの曲に蟠りはじめた。憑きものに魅せられたようである。

思想はさまざまに動く。それはそれで好いと思い返しても見る。芸術の複雑性はそこから生まれて来る。その作用は豊饒でなくてはならない。ここに芸術のコルヌコピアがある。打出の小槌がある。

鶴見はそんな事にまでも思を馳せて、二十余年の昔の夢から今日に及ぼして、それを心の中に繰り返して見て、『起信論』全体を納得しようと念じているのである。

蘭軒伝の中で、鴎外が特に二章を費して考証しているものに楸がある。これも外来植物である。丹念に検討したあとで、実際的智識に富んでいる、その道の人としての牧野さんに頼んで、説明を求め、最後の解決がつけてある。極く約めて言えば、楸はわが国のあずさかきささげかという疑いである。牧野さんはいう。普通あかめがしわを梓に当てているが、昔わが国で弓を作った木は、今でも秩父であずさと称している。この方には漢名はないということである。鴎外は専ら漢土の文献について説を立てているのであるが、楸は漢土では松柏の熟語と殆ど同義に用いられ、めでたい木で、しかも大木になるとある。