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ゆめはよびかわす

夢は呼び交す

蒲原 有明

――黙子覚書――

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 104,126 字 · 210 页

青空文庫

その条下に板塀の上に夾竹桃が二、三尺伸びているように書いてある。徳川時代の初期、寛永年代のことである。夾竹桃がその時分既に渡来していたものか、そこに疑が生ずる。

しかしかかる疑念をうち消すために、こうもいえる。南蛮船が来航し、次で和蘭陀からも遣って来る。支那との交通はもとよりのことである。香木の伽羅を手に入れることで、熊本の細川家と仙台の伊達家との家臣が争っている。この事は鴎外の『興津弥五右衛門の遺書』に書いてある。そんな時代の趨勢から見れば、夾竹桃ぐらいが伝っているのに、別段の不思議はないと。

それもそうであるが、果してそうであれば、それ以後の徳川期の文献に、何か記載がなければならない。殊に新奇を好んで飛耳張目する俳諧者流の手にかからぬはずはなかろう。阿蘭陀西鶴に夾竹桃を読み込んだ一句でもあるか、どうだろう。そんな方面にも鶴見の見聞の領域は狭い。文献の有無を検討するにしても鶴見はまるで不案内である。こんな疑惑は畢竟無知のさせる烏滸の沙汰である。そうであって欲しいと思って見ても、不審は解けない。

ただ、それにしても寛永ではあまりに早過ぎる。気にかかるのはそれだけのことである。