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ゆめどのさつじんじけん

夢殿殺人事件

小栗 虫太郎

「改造」1934(昭和9)年1月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 27,755 字 · 55 页

青空文庫

その中には、犯行にとどめられている様々異様な特徴が、一々符合し具体化されていて、それが幾つとなく、数え上げられて行くのだった。

「成程、素晴らしい犯人の制作です。これでは、画中から孔雀が脱け出して階段を下り、そうして鋭い爪で推摩居士を掻き※(「てへん+毟」、第4水準2-78-12)ったばかりではなく、更に、四本の手を伸ばした背上の菩薩が、浄善の首を絞めた――と云うより外にないでしょう」と一端法水は、夢見るような調子で呟いたけれども、それからすぐ、冷然と盤得尼に微笑み掛けた。「所が、庵主、この童話劇の結論は、結局菩薩の殺人と云う仮定に行き着いてしまうでしょう。然し、考えれば考える程、却って僕は、その逆説的な解釈の方に、惹かれて行ってならないのですよ」

「承わりましょう――一体何を仰言りたいのです」

盤得尼は屹然と額を上げた。

「要するに、接神妄想なんですよ。これは、ボーマンの『宗教犯罪の心的伝染』と云う著述の中にある事実ですが、十六世紀の始めチューリッヒの羅馬加特力教会に、所謂奇蹟が現われたのです。ある八月の夕方、会堂の聖像が忽然と消え失せてしまって、その代り、創痕から何まで聖像と寸分も異ならない肉身の耶蘇が、十字架の下に神々しい屍体を横たえているのです。