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ゆめどのさつじんじけん

夢殿殺人事件

小栗 虫太郎

「改造」1934(昭和9)年1月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 27,755 字 · 55 页

青空文庫

いや、笙の蜃気楼を作った貴女の魔術を、私が此処でくどくど説明する必要はないのですよ。とうに貴女は、それを問わず語らずのうちに告白してしまっているのですからね」

法水論理と巧妙なカマに掛かって、普光尼は一溜りもなく、その場に崩れ落ちてしまうものと思われた。所が意外にも、彼女の態度が見る見る硬くなって行って、やがて厳粛な顔をして立ち上った。

「いいえ、どうあろうと一向に構いませんわ。仮令、私が犯人にされた所で、菩薩にあるまじき邪悪の跡に、反証を挙げてさえ頂ければ……。けれども、孔雀明王が残した吸血の犯跡が、依然として謎である以上は、貴方の名誉心のために払わされる犠牲が、余りに高価過ぎやしないかと思われるのです。それよりも、寂蓮尼が期待している推摩居士の復活の方が、どうやら真実に近附いて行きそうですわ。この暑熱の些中に、一向腐敗の兆が見えて来ないのですから」

斯うして、法水の努力も遂に徒労に終って、階下の密室が解けたと思うと、その一階上に、更に新しいものが築かれてしまった。が、法水は一向に頓着する気色もなく、その日は他の誰にも遇わず、経蔵の再調査だけをして、囂々たる大雷雨の中を引上げて行った。