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ゆめどのさつじんじけん
夢殿殺人事件
小栗 虫太郎
「改造」1934(昭和9)年1月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 27,755 字 · 55 页
「なに、重量と膨脹を!」検事は眩惑されたような顔になって叫んだ。
「うん、そうなんだ支倉君、結局そう云う仮定の中に、犯人の怖ろしい脳髄が隠されていたのだよ。とにかく、順序よく犯行を解剖して行く事にしよう。所で、事件の直前から、犯人が夢殿の中に潜伏していたと云う事は、当時各自の動静に、確実な不在証明が挙がらなかったのを見ても明らかだろう。だが、却ってそれが、この場合逆説的な論拠になるとも云えるんだ。そして、何処に隠れていたかと云う事は、あの当時の夢殿が、油火一つの神秘的な世界だったのだから、それは改めて問う迄もない話だろう。所で、浄善の昏倒と推摩居士の発作が適確なのを確かめると、犯人は四本の玉幡を合せて、繍仏の指に凸起のある方を内側にして方形を作り、それを三階の突出床の下に吊して置いたのだ。そして、愈画中の孔雀明王を推摩居士の面前に誘き寄せたのだが……、そうすると支倉君、あの神通自在な供奉鳥は、忽ちに階段を下り、夢中の推摩居士に飛び掛かったのだよ」
そう云ってから法水は、唖然とした検事を尻眼にかけて立ち上り、書棚から一冊の報告書めいた綴りを抜き出した。