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むゆうびょうしゃのし
夢遊病者の死
江戸川 乱歩
「苦楽」プラトン社、1925(大正14)年7月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,121 字 · 22 页
父親が火鉢の抽斗から湯札を出して、銭湯へ出掛けた様子だった。暫くたって帰って来ると、彼の御機嫌をとる様に、
「すっかり晴れたよ。オイ、もう寝たのか、いい月だ、庭へ出て見ないか」
などといっていた。そして自分は縁側から庭へ下りて行った。その間中、彦太郎は四畳半の壁の側へ俯伏して、泣き出した時のままの姿勢で、身動きもしないでいた。蚊帳もつらないで全身を蚊の食うに任せ、ふてくされた女房の様に、棄鉢に、口癖の「死んじまえ。死んじまえ」を念仏みたいに頭の中で繰返していた。そして、何時の間にか寝入って了ったのである。
それからどんなことがあったか。
その翌朝、開けはなした縁側からさし込む、まばゆい日光の為に、早くから目を覚した彦太郎は、部屋の中がいやにガランとして、昨夜のまま蚊帳も吊ってなければ床も敷いてないのを発見した。
さてはもう父親は出勤したのかと、柱時計を見ると、まだやっと六時を廻ったばかりだ。何となく変な感じである。そこで、睡い目をこすりながら、ふと庭の方を見ると、これはどうしたというのであろう。父親がそこの籐椅子に凭れ込んで、ぐったりとしているではないか。