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むゆうびょうしゃのし
夢遊病者の死
江戸川 乱歩
「苦楽」プラトン社、1925(大正14)年7月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,121 字 · 22 页
とそればかりを繰返すのだ。
署長を始め刑事達は、あっけにとられて、不思議な闖入者の姿を眺めた。そんなことがあり得るだろうか。まさか、この男が彦太郎の家にあった桐の下駄を穿いたとも思われぬ。そうだとすると、少しも足跡を残さないで、どうして殺人罪を犯すことが出来たのであろうか。そこで、彼等は兎も角、男の陳述を聞いて見ることにした。
それは実に意外な事実であった。警察始まって以来の記録といっても差支ない程、不思議千万な事実であった。さて、その男(それは伯爵家の書生の一人であった)の告白した所はこうなのである。
昨日、伯爵邸に数人の来客があって、西洋館三階の大広間で晩餐が供せられた。それが終って客の帰ったのが丁度九時頃であった。彼はそこのあと片付けを命ぜられて、部屋の中をあちこちしながら働いていたが、ふと絨氈の端につまずいて倒れた。そのはずみに部屋の隅に置いてあった花瓶を置く為の高い台を倒し、台の上の品物が、開けはなしてあった窓から飛び出したのである。
その品物が若し花瓶であったら、こんな間違いは起らなかったのであろうが、それは、花瓶の台にはのっていたけれど、花瓶ではなくて、五六時間もたてば跡方もなく融けてなくなって了う氷の塊だったのである。