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おおとりものせんにんつぼ

大捕物仙人壺

国枝 史郎

「太陽」博文館、1925(大正14)年7月~12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 47,606 字 · 97 页

青空文庫

瞽女に扮した浪士の一人が、そこで三味線を押しやった。

艶に床しい三味線の音色が、毛脛屋敷から洩れたのは、それから間もなくのことであった。

18

ちょうど同じ夜のことであったが、芝三田の義哉の家では、奇怪な事件が行なわれた。主人義哉が出かけて行った後、小間使のお花は雇女と一緒に、台所で炊事を手伝っていた。

と、口笛の音がした。

物みな懐かしい春の宵で、後庭では桜が散っていた。

ヒューヒューと鳴る口笛の音も春の夜にはふさわしかった。

しかしその時、居間の方で、変にカキカキいう音がした。

「おや」とお花は聞耳を立てたが、手に葱を持ったまま、急いでそっちへ行ってみた。

一匹の奇形な動物が、背を蜒らして走り廻っていた。犬のように大きな鼬であったが、口に手箱を銜えていた。

「あっ」とお花は悲鳴をあげ、無宙で葱を投げつけた。

鼬の何よりも嫌いなのは、刺戟性の葱の匂であった。それで、鼬は一跳ね跳ねると、食わえていた手箱を振り落し、庭の茂へ走り込んだ。

「ああ恐かった」と溜息をしながら、お花はしばらく立ち縮んだものの、気が付いて手箱を取り上げた。

彼女は利口な女であった。