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だいぼさつとうげ

大菩薩峠

中里 介山

23 他生の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 145,722 字 · 286 页

青空文庫

「こんにちは。なかなかお寒うございますね」

そこへあいそうよく入りこんで来たのは、お雪ちゃんです。

「おや、お嬢さん、おあたりなさいまし」

と北原が、薪を折りくべながらいいますと、

「御免下さいまし」

いつか、相当の馴染になっていると見えて、お雪はすすめられるままに、炉辺へかしこまり、

「先生」

と言って、池田の方へ向きました。

「え」

長い火箸で火を掻いていた池田は、お雪ちゃんから、思いがけなく先生と呼ばれたので、ちょっと驚いた眼つきをすると、

「少々、お願いがございますのですよ」

お雪は相変らず人懐こい言葉づかい。池田は少々恐縮の色で、

「何ですか、改まって、私を先生とお呼びなすったり、お願いだなんておっしゃったり、痛み入りますよ」

という。

「いいえ、お隠しになってもわかっておりますよ、守口さんがお帰りの時にそういいました、あの池田先生は良斎といって、京都では国学の方で指折りの先生だから、よく教えておもらいなさいって……ですから、先生にお願いに上りました」

お雪からこういわれて、池田良斎先生が頭を掻きました。

「守口の奴、よけいなことをいったものだ、なるほど、少しは国学もやるにはやりましたが、指折りの先生だなんて、いやはや」