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だいぼさつとうげ

大菩薩峠

中里 介山

24 流転の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 159,272 字 · 313 页

青空文庫

三日まで七兵衛の音も沙汰もなかったその夕べ、神尾がいらいらしているところへ、お絹が酒を薦めました。

酒を薦めて悪いことは知って知り抜いて、それを取り上げているお絹が、たまには、といって一杯の酒を薦めたのが、神尾のこの鬱陶しい気分を猛烈にする。

一杯――二杯。

そこでお絹が、七兵衛の奴の、気障で、皮肉で、憎いことを説き立てる。つまりああして大金を放り出して、乾ききっている吾々の前へ出しておくのは、吾々のよわみを知って、とても手出しができまいとたかを括っての仕事だ、金銭は欲しいとはいわないが、その仕向け方が癪じゃありませんか……というようなことを煽り立てる。

久しぶりの酒が利いて――無論、まだ酒乱の兆す程度には至らないし、またそこまで至らしめないように、そばで加減はしているが、神尾主膳が早くも別人の趣をなして不意に立ち上り、

「よし、目に物を見せてくれる」

長押にあった九尺柄の槍を取って、無二無三に、かの暗澹たる鎧櫃の座敷へ侵入しました。

主膳が九尺柄の槍を取って、かの暗澹たる鎧櫃の間へ走り込んだのを、お絹は引留めようともせずに、手早く手燭を点して、その跡を追いかけました。