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だいぼさつとうげ
大菩薩峠
中里 介山
24 流転の巻
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 159,272 字 · 313 页
ついにその夜が明けるまで、七兵衛は帰って来ませんでした。七兵衛が帰って来ないでも、鎧櫃の厳然たる形は少しも崩れてはいない。こうなると厳然たる鎧櫃そのものが判じ物のようになって、財宝を残して行った当人よりも、残されて行った他人の方が、心配の負担を背負わされる。
知らず識らず、神尾と、お絹とは、この鎧櫃の番人にされてしまいました。代る代る二人が見廻りに来る。来ない時は、二人の心が鎧櫃をグルグル廻っている。
どこへ行ったろう――その翌日も、とうとう七兵衛は帰って来ない。夕方も、夜も。
主膳とお絹は、またもいい合わしたように、二人が前後から鎧櫃を囲んで、ついにその錠前へ手をかけてみました。手をかけてみたところで、それを壊そうとか、こじようとかするほどの決心ではなく、ただ錠前の締り工合をちょっと触ってみたくらいのところでありますが、その締り工合はまた厳として、許さぬ関の権威を守っているから、それ以上は手を引くよりほかはない。
ばかにしている――三日目の夕方まで七兵衛が帰らないので、神尾の堪忍袋が綻びかけました。
この堪忍袋。誰も堪忍袋を要求した者はないはずだが、それでも神尾自身になってみると、相当に気をつかっていたらしい。