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だいぼさつとうげ

大菩薩峠

中里 介山

24 流転の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 159,272 字 · 313 页

青空文庫

もうこれ以上は――神尾も手が届かなくなった。鎧櫃の底はまだ深い。向うも遠いけれども、コジあけた穴の大きさに限りがあるものだから、そこで手の届く限りは掴み出してしまって、再び穴をくりひろげるか、そうでなければ、櫃を打壊すか、ひっくり返すかしないことには、取り出せなくなったので、神尾が手を休めて見返ると、お絹が拾い集めてはいるが、お絹一人の手では間に合い兼ねて、四辺は燦爛たる黄金白銀の落葉の秋の景色でしたから、この目覚しさに、自分のしたことながら、自分のしたことに目を覚して、その夥しい金銀の落葉に眩惑し、現心で、その中の一枚を拾い取って見ると、疑う方なき正徳判の真物……

その時に廊下で、咳払いがして、人の足音が聞え出す。七兵衛が帰って来たのです。

その咳払いと、足の音を聞くと、吾を忘れていたお絹が、はっと胆を冷しました。

「あ」

一方を見返ると、自分たちが開け放しておいたところに、七兵衛がヌッと立ってこっちの狼藉を見ながら、ニヤリニヤリと笑っています。

「七兵衛か」

と神尾主膳も槍を手にして、帰って来た七兵衛を見返りながら、てれ隠しの苦笑いです。ただ隠しきれないのは、室内に燦爛たる黄金白銀の落葉の光。