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だいぼさつとうげ
大菩薩峠
中里 介山
24 流転の巻
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 159,272 字 · 313 页
構え方に一点の隙を見出すことができない。
事実、三宅三郎も、今日までにこれほどの名人を見たことがない。心中、甚だ焦ることあって、しきりに術を施さんとして、わざと隙を見せるが、先方の泰然自若たること、有るが如く、無きが如く、少しもこっちの手には乗らない。
勝とうと思えばこそ、負けまいと思えばこそ、そこに惨憺たる苦心もあるが、最初から負けようと思ってかかる立合には敵というものがない。しかもその負けることだけに二年有余の修行を積んでいる武芸者というものは、けだし、天下に二人となかろう。余裕綽々たるもその道理である。
この意味に於て南竜軒は、たしかに無双の名人である。
至極の充実は、至極の空虚と一致する。
これを笑う者は、やはり剣道の極意を語るに足りない。道というものの極意もわかるまい。
さて、三宅三郎は、どうにもこうにも、南竜軒の手の内がわからないが、そうかといって、剣術というものは、竹刀を持って突立っているだけのものではない。ものの半時も焦り抜いた三宅氏も、これでは果てしがないと思い切って、彼が竹刀の先を軽く払って面を打ち込んでみた。
「参った!」
その瞬間、南竜軒はもう竹刀を下に置いて、自分は遥かに下にさがって平伏している。