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だいぼさつとうげ

大菩薩峠

中里 介山

30 畜生谷の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 74,962 字 · 145 页

青空文庫

その急病人の上には、形ばかり蒲団をかけてあるが、その上に白布をいっぱいにかぶせてある体を、馬上にいたお雪ちゃんが、最もめざとく見て、そうして、はて、これは急病人ではない、もう縡切れている人だ、お気の毒な、急病の途中、高山までよいお医者の許へとつれ出してみたが、もうイケないのだ、気の毒な――とお雪は、よそながら同情してしまいました。

久助さんも、同じように見たとみえて、その人たちに向って、

「御病人でございますか」

「はい――どうも、いけませんでな」

一行の肝煎が、はえない返事。

「お気の毒でございます、こんな山方で、急病の時はさだめてお困りのことでござんしょう」

「はい、どうもなんにしても、こんな山坂の間でござんすから」

「どちらからおいでになりました」

「白骨から参りました」

「え、白骨から、左様でございますか、いつ白骨からおいでになりました」

「昨晩、夜どおしで参りました」

「それは、それは」

久助さんも改めて、その釣台を見直すのでありました。

それというのも、自分も昨日、白骨を立ったのであるが、こんな人には行逢わなかった。多くもあらぬ白骨谷に籠る面々には、みんな近づきになっているはずだのに、あの中には、いずれも一癖ありそうな人ばかりで、急にこんなになって運ばれねばならぬ人は、一人も見かけなかったのに、はて、不思議