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だいぼさつとうげ
大菩薩峠
中里 介山
30 畜生谷の巻
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 74,962 字 · 145 页
ていたせいか、真白くなって眠っているのを、たしかに見届けました。
十一
それは、お雪ちゃんが気のついた瞬間に、釣台をかついだ人夫が、あわてて覆いをしたものですから、ほかの誰も気のついたものはありません。
一息入れて釣台の一行は、こうしてお雪ちゃんの一行に後れて来たが、先立ってしまいました。
そのあとから、おもむろに手綱をとりだした馬子が、
「お客さん、これが平湯峠の名物、笹の魚というのでがんすよ、おみやげにお持ちなさいましな」
それは笹の葉が魚の形に巻き上ったもの。
「これが渓河へ落ちると岩魚という魚になるんでがんす」
笹の葉化して岩魚となるという、名物のいわれ面白く、手折ってくれた好意も有難いが、お雪は上の空で受けて、やがて馬は平湯峠を下りにかかる時、
「平湯峠が海ならよかろ、いとし殿御と船で越そ――という唄がござんしてな」
馬子が、そういって教えたのも、いつものお雪ちゃんならば、「それをひとつ唄って下さいな、ぜひ」とせがむにきまっているが、今はその元気さえありません。
たったいま、見た物の怪を、誰ぞに話してよいものか、悪いものか、それにさえ惑いきっているのであります。