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だいぼさつとうげ

大菩薩峠

中里 介山

33 不破の関の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 86,467 字 · 168 页

青空文庫

今晩、その辺の当りをつけるために、わざわざ福松の御神燈の下に立ったのは、商売柄こういう女を利用すれば、何かきっかけが得られないものでもあるまいとの用意でした。

そこで、今、兵馬はお雪ちゃんと宿所を共にしているところの相応院の坂を上りながらふり返ると、まさに草木も眠りに落ちている高山の天地――宮川筋にまばゆき二三点の火影のみがいやになまめかしい。

「泊っていらっしゃいな、あら、わたしのところじゃおいやなの……」と言った声が、油地獄の中の人のように兵馬の耳へ事新しく囁いて、甘ったるい圧迫がまだ続いている。泊れと言われたら、泊って来たらいいじゃないか――ばかな……

というようなうつらうつらした気持で後ろの夜景を顧みながら、足はすたすたと相応院の方へのぼりつめている。

「いま帰りました、おそくなりました」

軽くお雪ちゃんに挨拶したつもりなのだが、返事がありません。返事が無いのは眠っている証拠だから安眠を妨げないがよろしいと、ひそかに井戸端で足を洗って、座敷へ通って見たが、いつもある有明の燈火が無く、兵馬が手さぐりに近づく物音にも、お雪ちゃんはいっこう驚かず、やっと火打をさぐりあて、カチカチときった物音にも、パッと明るくした明りにも、お雪ちゃんはいっこう醒めず、その行燈で兵馬が一応室内をあらためて見た時、いずれの部屋