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だいぼさつとうげ
大菩薩峠
中里 介山
37 恐山の巻
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 254,021 字 · 495 页
件の血の滴りといっても、あの屏風の下から、この女王の部屋を横断して、次の間の或る程度で止まってしまっているものですから、極めて容易い掃除で済みました。
それが済むとお銀様は、ならず者が置き放して行った一件の脇差を静かに取り上げて、机の前へ端坐してながめました。まさしく自分の父の愛用の道中差に相違ない。物を盗りに来て物を置いて行った盗賊の間抜けぶりも笑止といえば笑止だが、あの図々しさは法外である。時が時、場合が場合でなければ、わたしたちはどうなったかわからない。
それに、もう一つ笑止千万なのは、今のあのならず者が、わたしの父の伊太夫が旅をしてこちらへ出て来ていること、しかも、自分と眼と鼻の間の大津に宿を取っているということまで、嘘かまことか喋って行ってしまったのが、自分のためには、わざわざ飛脚の役をつとめてくれたようなものになっている。
それにしても、父が何のために、どうして旅立ちをする気になったのだろう。そんなことを考えつつ、行燈を朧ろに薄めて、やがて夜具をかついであけ方を深き眠りに落ちて行ったようですが――次の間ではもうその以前に夢を結んでいるらしい。