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だいぼさつとうげ
大菩薩峠
中里 介山
37 恐山の巻
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 254,021 字 · 495 页
「過ちというものは誰にもあるものだ、そう気を落さんで、もう一度、念入りに探し給え、拙者もたしかに、ここで君が役人に見せたのを見届けているのだから」
再び白雲が言うと、
「いや、過ちではないです、僕のぬかりなのです、あの時、刀を抜く方に気を取られて内懐ろに隙が出来た、それが未熟の致すところなのです。あの時に取落したんじゃない、あの時に抜き取られたのです。しかも抜き取った奴の面までちゃんと僕は覚えているんですが、今となってはどうにも行かんです」
じっと、向う岸を睨んだ眼の中には、存外、自制もあれば、分別もあることを、田山白雲は認めました。果して落したものでない、抜き取られたものであるとすれば、抜き取った奴は何者か。何のためにしたことだ。居合を見事に抜かれたその仕返しに、こちらは懐中物を抜いてやったというのは、いたずらにしても細工があり過ぎているではないか。
十二
向う岸を睨みながら、柳田平治が、なおひとり言のように言いました、
「役人の傍に変な奴が一人いたのです、今となってわかるのです。なぜわかるかと言えば、あの、僕がこれを抜こうとした瞬間に、誰の心もみんな僕に向って集中するのはあたりまえなんで、みんなの心が集中するから、こちらも精神の統一が出来て、わざがやりよいのです。