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だいぼさつとうげ

大菩薩峠

中里 介山

37 恐山の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 254,021 字 · 495 页

青空文庫

米友が、ついに堪りかねて、憤然として弁信のお喋りの中へ楔を打込みました。

「わからねえ、わからねえ、お前の言うことは一切合財、ちんぷんかんぷんで、早口で、聞き間に合わねえが、つまり、舟の行先が間違ったというんだろう、なあに、間違やしねえよ、爪先の向いた方へ真直ぐに漕いで来たんだ」

「それが、米友さん、自分は真直ぐなつもりでも、出発点というものが誤ると、その真直ぐが取返しのつかない道へ突っかけるものなのです、竹生島へ参りますには、戌亥へ向いて参らなければならないのに、この舟はいま未申の方へ向いて進んでいるのです、これでは竹生島へ着きません」

米友は櫓の手を止めて、弁信の言葉にはあんまり耳を傾けず、渺々たるみずうみの四辺をグルグル見廻しておりましたが、急に威勢のはずんだ声を出して、

「待ちな――」

と言いました。

「待ちな、弁信さん、お前さっきから目も見えねえくせに、方角が違うの、この分では島へ着けないのと、ひとりぎめでやきもき言っているが、論より証拠だ、見な、島が見えるよ、つい、その鼻の先に、立派な島が浮いてるよ」

「えッ――島がありますか」

「見な――と言ってもお前にゃ、見えねえんだな、おいらのこの眼で見て間違えがねえ、そら、ちゃんと、この指の先に島があらあ」