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だいぼさつとうげ
大菩薩峠
中里 介山
41 椰子林の巻
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 178,374 字 · 345 页
おぞけをふるうという心持。誰ぞ外へ人が来たらしい。
見廻すこの室の内、僅かに八畳の間、周囲の襖は名ある絵師に描かせた花野原。
絵に見る花野原をかきわけて、いまにも人が出そうでならぬ。
これではいけない、多年の平家物語の校合も、せっかくこの六道能化まで来たのに、あとはめちゃめちゃ、ここでブリ返して、こんなに魔がさすようではならない。
老尼は、われと気を鎮めてみたが、魔障わが精進をさまたぐるか、と言って躍起となる意気もないようであります。というのは、この老尼は修行のために、ここに静処を求めたのではなく、狂言綺語の閑居を楽しまんとする人であったからでしょう。様こそ法体にこしらえてはいるが、これも仏道精進のためというよりは、世間体をのがるるには、この様が最も許されやすいという身勝手から出でたもので、要するに趣味の人であって、修道の人でないからでしょう。五十路を越えて、まだこんなに水々しいところが何よりの証拠で、都にあって祇園精舎の鐘の声を聞くよりは、ここに閑居して沙羅双樹の花の色の衰えざるを見ていたい。
そういう未練な仇し心が、この場で、内外から魔の乗ずる隙を与えた、いわば自分の造りおけるわなに、自分がかかっておびえるようなものです。