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だいぼさつとうげ

大菩薩峠

中里 介山

34 白雲の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 104,838 字 · 204 页

青空文庫

「ははあ、こいつ、お絹のやつが異人からせしめたのだな」

と言って、くりひろげる途端、思わず自分の面がうつると、明々瞭々たる三ツ眼!

累ではないが、それ以来の主膳は鏡を見ることを嫌う。お絹がお化粧をしているところへ通りかかって、つい自分の顔が鏡面に触れた瞬間などは、あわててそれを避ける。日本の鏡はうつすにしても、もっと親切だが、このガラス鏡は強烈だ、いぶしも雅致もなく、醜態そのままをすっかりうつしてしまう。主膳はかっとなって、そのガラス鏡を畳の上に叩きつけたが、叩きつけられて裏返しになった鏡の一面に、また鮮かな絵がある。それは酔いと物狂わしさにボケた主膳の眼にも、ハッキリと受取れるところの絵模様。

肌のすてきに美しい裸女が一人、一糸もかけずに嬌態を長椅子にもたせて、一種異様な笑みを浮べている。

神尾が三つの眼で、一ぺん叩きつけた鏡の裏絵を見つめました。

「毛唐の奴は、裸女を平気で描いて表へ出しやがる、描かせる奴も描かせる奴だが、描く奴も描く奴だ、こん畜生!」

と言いながら主膳は、畳の上の鏡の裏絵の裸体美人へ、自分の鼻先をこすりつけるほどに持って来て、香いをかぐかのようにながめ入りました。