轻松读懂日语经典作品
ja-reading.com
轻松读懂日语,轻松阅读日语。在线阅读日语经典作品。支持在阅读过程中显示假名、查询生词、翻译句子。
だいぼさつとうげ
大菩薩峠
中里 介山
34 白雲の巻
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 104,838 字 · 204 页
そうすると間もなく、大男の手はオールにかかったのですが、その以前に、もう二人のほかに、何か若干の手荷物が取りまとめられて、ボートの中に運ばれていたのです。
こうしてボートは大男の、図体に似合わぬ熟練軽妙なオール捌きによって、ほとんど水音を立てず、鏡の上を辷るように、すーっと月ノ浦の港の上を辷り出したものです。
その前後、誰ひとり見ているものはなく、また誰をしも驚きさます物音をも立てず、すっと抜け出した手際だけは、たしかに鮮やかなものだと称すべき価値はあったのでしょう。
それを最初から見ていたのはムクだけでした。ところで、この豪胆にして且つ敏感なるムク犬が、ついに吠えることをしませんでした。
月ノ浦から小鯛島の間を、右のボートが夢のように辷って行く。それを茫然として見送っていたムク犬――出て行くボートの者にも、留まっている親船の人に向っても、あえて一吠えの挨拶をも警戒をも試みないところを以て見ると、さしものムクも、もうヤキが廻ったのか、そうでなければ、出て行くものは追わざるがよし、留まる者をして安らかに眠らしめよ、という厚意ある諒解をもっての挙動と見るよりほかはありますまい。