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だいぼさつとうげ

大菩薩峠

中里 介山

34 白雲の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 104,838 字 · 204 页

青空文庫

「ムク、お前が昨夜、あの二人の逃げ出すのを、気がつかなかったというのがおかしいわね、あの二人は当然ここを出て行くべき人なんだから、それでお前が知っていても止めなかったの――ここにいるよりも、出て行く方が二人のためにも、船のためにもいいと思ったから、それでお前が見逃したの、どちらだか、わたしにはわからない。お前がいながら、二人を無事に逃がした気持が、わたしにはわからない」

こういってムクに言いかけたが、その傍にいた金椎が、一種異様な表情を試むるだけで一言も吐かないのは、体質上是非もないが、兵部の娘とは切っても切れない馴染を持っているはずの清澄の茂太郎が、ここへも姿を現わさないし、ウンだとも、つぶれたとも言わないのも異例の一つです。

と思いやる途端に、親柱の上高く人の声がする、

「ああ田山先生が来る――七兵衛おやじは来ないけれども、田山白雲先生がやって来る」

もう、あんなところに登っている。

どこの方角を、どうながめているのか知らないが――遠く眼を空と山との間に注いで、そうして、人が来る来ると呼んでいる。果してその方角から来る人があるならば、それは雲際から降りて来る人でなければならぬ。