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だいぼさつとうげ

大菩薩峠

中里 介山

34 白雲の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 104,838 字 · 204 页

青空文庫

そこで、誰に憚ることなく、昼寝の甘睡を貪っていること幾時――自分の存在を知らしめないだけの天地の上に、他の者の来襲に遭っては、針を落したほどの音にも眠りを醒すの機能を授かっている。こうして甘睡を貪っていたところを、思いがけなく、息もつかせずにこの梁上床下の天才を襲いかけた不敵者がありました。しゅうーしゅうーっと鳴りを立てて、七兵衛が甘睡の枕許に、鼠花火のように襲いかかり、枕許の風呂敷を被せた兜様のものにカツンと当って七兵衛の面を横倒しに撫でおろしたものがあったのには、さすがの七兵衛が夢を破られて、一時は全く周章狼狽しました。

何だ、もとより人間のお手入れではないし、そうかといって、鼠やいたちの類ではない。横倒しに倒れかかって自分の面を上から撫でおろした一件の物を、無性にかなぐりとって見ると、それは一筋の弓の矢でした。

「あ、矢だ!」

縁の下のいずれかの隙間から、この矢が流れ込んで、自分の枕許を脅したのだ。我ながら――人獣に備える心は不断に怠ったとは言えないが、まだ、ここで弓矢に覘われようとは、さすがの七兵衛も予想していなかったことです。

その矢を握りしめて、半分起き直って見ると、七兵衛の頭を掠めたのは、この一筋の矢が――果して、自分のここにひそんでいることを認めて来り脅したのか、或いは何かのはずみの流れ