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てんさいけいまい
天才兄妹
野村 胡堂
「少女倶楽部」1928(昭和3)年11月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 9,891 字 · 20 页
一
一
「お嬢さん、あなたはヴァイオリンをひきますか」
隣席の西洋人は、かなり上手な日本語で、斯う信子に話しかけました。
「ハ、イーエ、私のでは御座いません、これは兄ので――」
信子は少しドギマギしながら、ヴァイオリンの革箱を椅子の上に置いて、心持顔を赧らめました。
身体も大きく、心持も大人びて居りますが、信子はまだほんの十六になったばかり、可愛らしい円顔にお河童で、碧色の勝った、更紗ボイルの洋服も、又なくハイカラですが、まだ学校の英語の先生の外には、西洋人というものに話しかけられた事が無かったのです。
「お兄様というと?」
中年輩の立派な西洋人は、その優しい青眼をまたたいて、腑に落ちないような顔をして居ります。
軽井沢を宵に発った汽車が、丁度高崎近くまで来た時のことです。二等車の中は存分に空いて居りましたが、ゆっくり寝そべるように、立花兄妹は別れ別れに席を取ったので、この若くて美しい信子に、連れがあろうとは誰も思わなかったのでしょう。
「僕です」
幾久雄は妹の迷惑相な様子を見兼ねて、向う側から声をかけました。青白い高貴な顔をした青年で、真ん中で分けた少し長い毛と、黒のボヘミアンネクタイに、何んとなく芸術家らしい趣があります。