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てんさいけいまい

天才兄妹

野村 胡堂

「少女倶楽部」1928(昭和3)年11月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 9,891 字 · 20 页

青空文庫

二

「悲しいような嬉しい事――それは一体どういう意味ですか、差支なかったらお話し下さい」

「エ、喜んでお話しましょう――」

汽車は高崎へ着くと、その二等車からも二三人降りて、ベーカーの側にも一つの席が空きました。幾久雄は大急ぎでその席に移って、妹と二人でベーカーを挟んで坐ると、幾久雄の今まで居た向う側の席へは、同じ箱の中に居たらしい、二人の西洋人がやって来て、いそいそと腰を下しました。一人は眼の鋭い毛の赤い、羆のような感じのする若い男、一人は東洋人との混血児らしい、栗色の髪で額を隠し、宝石をうんと彫めたギラギラする洋服を着た、妖婦型の若い婦人です。

二

「私の友人というのは、金持で病身で、そして私と同じように音楽を愛する男です」

幾久雄はこう話し始めました。

「一昨年の夏、私と一緒にフランスからドイツへ音楽研究の旅を続けて居る時、ミュンヘンのさる旧家の売り立てで、思いもよらぬヴァイオリンの名器を手に入れました。そのヴァイオリンというのは、銘のあるストラドヴァリウスで世にも稀なる名器ですが、何んという幸運でしょう、友人はそれをたった三万円で手に入れたのです」

「お、お、ストラドヴァリウス、それは珍らしい事です」