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てんいむほう

天衣無縫

織田 作之助

「文芸」1942(昭和17)年4月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 12,975 字 · 25 页

青空文庫

あとで聞いたことだが、その人はその日社がひけて、かねての手筈どおり見合いの席へ行こうとしたところを、友達に一杯やろうかと誘われたのだった。見合いがあるからと断ればよいものを、そしてまたその口実なら立派に通る筈だのに、また、当然そう言わねばならぬのに、その人はそれが言えなかった。これは私にとって、どういうことになるんだろう。日頃、附合いの良いたちで、無理に誘われると断り切れなかったなんて、浅い口実だ。何ごとにつけてもいやと言い切れぬ気の弱いたちで……などといってみたところで、しかし外の場合と違うではないか。それとも見合いなんかどうでも良かったのだろうか。私なんかと見合いするのが恥かしくて、見合いに行くと言えなかったのだろうか。いずれにしても私は聞いて口惜しかった。けれど、いいえ、そんな風には考えたくなかった。矢張り見合いは気になっていたのだが、まだいくらか時間の余裕はあったから、少しだけつきあって、いよいよとなれば席を外して駈けつけよう、そんな風な虫のよいことを考えてついて行ったところ、こんどはその席を外すということが容易でなく、結局ずるずると引っ張られて、到頭遅刻してしまったのだ――と、そんな風に考えたかった。