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てんま
天馬
金 史良
「文芸春秋」1940(昭和15)年6月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 35,407 字 · 70 页
殊に事変以後その危惧は一層甚しかるべきである。玄竜はそれにつけ込んで愛国主義をふりかざし人々を売りつけながらのさばり廻っているのだった。それでどれ程多くの無実な人々が不安と焦躁、苦悶の深淵に突き落されたことだろうか。実際この会合は玄竜一派の言説に対する批判会だったのである。玄竜はその時体を反らしていかにも莫迦にしたように、
「朝鮮語か」
と一言あしらってせせらわらった。ここにおいてついに李明植は心燃え上り皿を取り上げてぶち投げた。皆はどっと騒ぎ出した。だが彼は頭を打たれて仰向けに倒れてからも不貞腐れたように尚けらけらと笑い続け、李明植は傷害のかどで検挙されたことは既に御承知である。後から彼は会場を出て一人で新町の廓の中へ浮れ込んで行って、どこか安い銘酒屋でウイスキーを何杯もひっかけるなり、その足で娼家の門をくぐったものである。彼はそれを思い出すと何となく気恥しくもあり又おかしくもなってくすりと笑ってしまった。それからまぎらわせるように慌てて立ち上りかけた。
「何時頃でしょうか」
「まあいいじゃありませんの、本当にせっかちですこと」と云いながら、文素玉はちらっと腕時計を覗いた。