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てんま
天馬
金 史良
「文芸春秋」1940(昭和15)年6月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 35,407 字 · 70 页
「まだ六時前ですのよ。そらおコーヒーを早く持って来てよ」
「じゃついでにトーストも貰いましょうかね」と云って、釣り込まれるように再び玄竜は腰を下ろした。
「……それでです。何しろ社長の大村君がじきじきやって来られたんじゃね、とうとう僕も参って書いてやったんですよ。すると奴さんすっかり悦びやがって僕を引っぱり出してね、ぐでんぐでんに酔っぱらわせてあのノイエ・シュタットに連れ込んだんですよ。ところが、それがね、メロンのように頬の黄色い女でしたよ……」
それからこのメロンのようにという言葉がとても肉感的に思われて自分ながらすっかり気に入ったらしく、もう一度繰り返して強調した。
「メロンのようにね」
さすがの女流詩人も彼が臆面もなく行って来たというその意味がやっと分ったとみえわれ知らず顔を火照らしたが、それでも自分の気づまりな様子をみせては安っぽく見られるに違いないと思い返して、いかにもそれはもうとっくによく知っているけれどといった調子でこう応じたのだ。
「よかったんですわね、……素敵ね。それでも玄さんをお寺へ入れるというお方が、よくまあそんな所へ連れて行きましたのね」