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たいへいようまじょう

太平洋魔城

海野 十三

「少年倶楽部」大日本雄弁会講談社、1939(昭和14)年1月~12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 93,147 字 · 187 页

青空文庫

「おおそうだ。早くしろ」

そういう声と共に、ユダヤ人の右足が、まるで犬ころでもけるように、太刀川の肩先へ、シュッと伸びてきた。

とたんに、太刀川は、かるくかわした。そしてその足をぐいと引いたからたまらぬ。かの大男は、後向けに、どうとたおれた。

さあ、ことだ。こんどはほんとに怒って、

「やったな。日本小僧」

叫びながら両手をひろげて、鷲づかみにしようと、おそいかかって来たのだ。

太刀川も覚悟はきまっていた。

どうせ死地にあるのだ。辱めをうけるより、日本人らしくたたかって、死のう。

「来い」

「おう」

大男が、咆えるような声をあげて、さっととびかかろうとした時である。

「何をする。カバノフ」

後から鋭く呼びとめた者があった。

「お前に、そんなまねをしろと、誰が命じた。委員長は先程から、待ちきっていられるぞ」

するとかのカバノフと呼ばれた大男は、

「あ、ああ……」

わけのわからぬ叫声をあげて、手をふり上げたまま、後じさりながら目を白黒。それをみて、

「はははは……そのざまは何だ。いくら貴様が力自慢でも、貴様の手におえる相手ではない。早くひけ」

見ると、部屋のすみの入口に、覆面、黒の法服のようなものをまとった大男が、銃剣を持った水兵を従えて、じっと、こちらを見つめているのである。