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きだんクラブ〔せんごばん〕

奇談クラブ〔戦後版〕

野村 胡堂

12 乞食志願

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,681 字 · 22 页

青空文庫

が、それに構わず、

「芳江」

「――――」

「芳江」

忠弘の声に引寄せられたように、芳江はその手の中に飛込んで泣いているのでした。

「お帰りを願いたい、でなければ、伊予守様も非人の仲間になられて、此小屋に入られては如何。――何を隠そうこの黒川宗次郎は、御領地島原の郷士、島原の乱後新領主高力様の苛政に煩わされ、切支丹軍徒を匿まった罪とやらで人別を抜かれ、非人頭配下に落された者で御座る。御領主高力様御惣領の伊予守様が、我々仲間に入られれば誠に本望、黒川の祖先もさぞ苦笑いをいたすことで御座ろう」

「――――」

若い二人の恋愛情景を横目に、黒川宗次郎の長広舌は続くのです。

「見得も、義理も、付き合いも無い、乞食の暮しの長閑さはこの通り。行きたいところに行き、帰りたい時に帰り、橋の下も堂宮の縁の下もわが家にして、権勢にも富貴にも阿らぬ境遇の気楽さは食祿と家名に縛られて、牢獄の中にいる大名に比べて、どちらが本当の幸せであろう。それで三度の食事と風流には事欠かず、香もたけば歌も詠む」

「――――」

「仲間の者の義理堅さ、青天井の下に援け合う暮しの晴々しさは、権謀ときっ詐に浮身をやつす、大名高家とは雲泥の違いで御座るぞ。