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きだんクラブ〔せんごばん〕

奇談クラブ〔戦後版〕

野村 胡堂

12 乞食志願

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,681 字 · 22 页

青空文庫

五

五

残る手段はたった一つ、岡崎十次郎を案内に、浅草田圃に、宗次郎芳江兄弟の隠れ家を襲う外はありません。

若くて一本調子で、少し破壊的な考えの持主だった、伊予守忠弘は、早速実行に取りかかりました。

浅草田圃の夜、虫の音に取囲まれたような、凄まじくも風流な宗次郎の小屋へ、四万石の大名が芳江を訪れたのは、振袖火事から九ヶ月目、秋も終りのある夜のことです。

兄の宗次郎は、その時唐物の香炉に、銀葉を置いて、秘蔵の名香をたきながら、静かに歌書を繙き、妹の芳江はその側で、兄の冬物のつくろいなどをしておりました。

「御免」

入って行った二人、――伊予守忠弘とその家来岡崎十次郎の顔を見て、兄妹はさすがに逃げもならず、互いに顔を見合せましたが、思い直した様子でいんぎんに迎えました。

兄の宗次郎というのは、三十前後の総髪、身扮は至って粗末ですが、見るからに智的な人物、岡崎十次郎が主人に代って来意を申入れたのに対して、

「大名の屋敷に非人が立入られないならば、非人の小屋に大名の立入るのも不都合では御座らぬか、お互いに疵のつかぬうちに、速かに御立去りを願い度い」

剣もほろろの挨拶です。