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きだんクラブ〔せんごばん〕

奇談クラブ〔戦後版〕

野村 胡堂

09 大名の倅

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,286 字 · 20 页

青空文庫

プロローグ

一

プロローグ

その夜の話し手遠藤盛近は、山羊の萎びた中老人で、羊羹色になった背広の、カフスから飛出すシャツを気にし乍ら、老眼鏡の玉を五分間に一度位ずつの割りで拭き拭き、見掛けに依らぬ良いバリトンで、こう話し始めました。

「私の話はさしたる奇談ではありませんが、旧式の道徳観からすれば少しく途方も無いのです。旧い秩序と常識を尊ぶ方々からは、甚だ喜ばれないかも知れず、これだけの資料はあり乍ら、旧制度の日本では、発表の出来なかった筋で、よい歳をした私が、壇の上に立って申上げるのは、聊か照臭い話ではありますが――批判は皆様にお任せするとして、兎にも角にも御披露申上げたいと思うのであります」

訥々たる調子ですが、思いの外の雄弁で、妙に聴く者の好奇心を焦立たせます。

「山の中から妖精のような美人を獲た話、――外国の伝説にはよくある筋ですね。仏蘭西近代音楽の巨匠ドビュッシーの歌劇『ペレアスとメリサンド』などはその代表的なもので、メリサンドの妖しい美しさは、ドビュッシーの素晴らしい音楽――モネーの絵のような音楽を通して、私共をすっかりやるせない心持にしてしまいます」

一

話は最初から脱線してしまいましたが、時は宝暦七年の初秋、――今から百九十年も前のことですが、濃州郡上の郷八幡城三万八千八百石の城主、金森兵部少輔頼錦の御嫡、同じく