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きだんクラブ〔せんごばん〕

奇談クラブ〔戦後版〕

野村 胡堂

09 大名の倅

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,286 字 · 20 页

青空文庫

しまったのです。

「桂どの」

「亥太郎様」

二人は尾花の蔭に、昼の一と刻を楽しんで居りました。

「父上に――我等両人の事を申して、改めて桂どのを申受けようと思うが、どうだろう」

「え、父は大喜びでございましょう、土岐様を褒めてばかりいらっしゃるんですもの」

桂は草花を摘んで、それを爪さぐり乍ら楽しそうに笑いました。秋の陽は一パイに顔を照らして、何んという健康な美しさでしょう。

二人はこうして、父親――遠藤主膳の賛成してくれるのを、毛程も疑ってはいなかったのです。

が、その晩、頼門から二人の恋をうち明けられ、改めて桂を宿の妻に申受け度いと言われた時、遠藤主膳は素直にそれを承知するにしては、年も長け、思慮も深い人物でした。

「それは考えないでは無かった。が、親として娘の縁談を承知する前に、先ず貴公の本名を承わらなければなるまい。唯の浪人者、土岐亥太郎殿であないことは、お言葉の節々にも解ることだ」

主膳の言うのは尤も至極でした。

「いかにも、それは拙者の手落であった、何を隠しましょう、拙者は――」

「――――」

桂は固唾を呑みました。土岐亥太郎の素性が容易なものでないことは、小娘の桂にもよく解って居たのです。