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ちぎりきぬ

契りきぬ

山本 周五郎

「ロマンス」ロマンス社、1949(昭和24)年10月~11月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 32,757 字 · 66 页

青空文庫

しかしそれは監視するというのではなく、使ってゆけるかどうかをためす意味のようだった。茶をたてさせてみたり、台所で煮物をさせたり、小さな買物の帳面をつけさせたり、さりげなく古い文反故を読ませたりした。

「よほどお躾が厳しかったとみえるのね。お年のわりにしては少しできすぎるくらいなさるわ」

伊代はそんなふうに云い、また近在にある自分の実家の弟にやるのだといって、手紙の代筆なども書かせたりした。

精之助は大寄合という席だけで、臨時の会合でもない限り月にいちど登城すればよかった。たいてい家にいるが、いつも友達が訪ねてくるし、三日めくらいには誘われて外出し、夜おそく帰ることも珍しくなかった。――友達には碁将棋とか謡などに凝っている者があって、彼もすすめられていちおうはやってみたという。だがどれひとつとしてものにならなかった。

「碁は目の数が多すぎて、頭がちらくらするっておっしゃるんですよ」伊代が笑いながらそんな話をした。「――将棋ではもっと面白いことがありました。衣巻さんというお友達が、この方もぶきよう組だそうですけれどね、お二人で同じじぶん将棋をお始めなすったんでしょう、いつか猿山という湯治場へいらしって、退屈だから将棋をしようということになったのですって」