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ちぎりきぬ
契りきぬ
山本 周五郎
「ロマンス」ロマンス社、1949(昭和24)年10月~11月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 32,757 字 · 66 页
四の三
脇へそむけているおなつの頬に、さっきから涙が条をなしてながれている。精之助はその涙を見た、すり寄って抱き締めたい衝動にかられたらしい、つと身動きしたが、しかしくっと唇をひき結び、さらにこう言葉を継いだ。
「あの日、友達を呼んだのは、かたちばかりだが内祝言のつもりだった、友達もそのつもりで、口にはださなかったが、みんな祝ってくれた、――父と母の肖像を仏間へ飾った気持は、あのとき云った筈だ、しかし、こんなことは実は、少しも話す必要はないんだ、なつ、――おれはおまえを愛していた、今でも、これからも、おれにはおまえのほかに妻はない、おれの愛することのできるのはおまえだけだ、なつ帰ってくれ」
四の三
宵のうちから降りだした雪が、さらさらと更けた雨戸に音をたてている。
鷹二郎を寝かせてある側で、いねが泣きおなつも泣きながら話していた。油が少くなったのだろう、行燈の火がじりじり呟きながら揺れ、火桶の炭火は、白く厚く灰をかむっていた。――あれから精之助は鷹二郎とながいこと遊び、いい気持そうに酒を飲んで寝た。
――よくわかりました。それでは帰らせて頂きます。
おなつがそう答えたのを信じて、これでようやく安心して寝られる。